旅に出られない

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 働き始めてから旅に出たことがない。連休が取れない。正月も夏も、まとまった休みがある訳ではない。土日祝日はほぼ働いてるので数少ない友人たちと予定が合わせにくい。ここのところ2連休すらない。法事で父の実家に2泊したのが一番長く取った休みだ。

 ここでこんなことを吐露しても意味はない。だったら転職すれば済む話だと言われそうだ。職を変えれば生き方も変わる。

 日帰りだったら旅に出られるが、それにも限度がある。去年ピアノを聴くためだけに行った浜松が一番の遠出だろうか。鈍行で行ったのが間違いだったのかもしれないが。

 問題は旅に出られないことそのものではない。旅行に行かないということで上から目線でものを言ってくる人が正直鬱陶しい。職業柄年に2回の超長期休暇があり、その都度海外旅行に出ている人と話した時もパスポートを持っていないことを口にしただけで呆れられた。旅に出て日常から離れてみないと視野が狭くなるというようなことも結構言われる。旅に出る人は口を揃えたかのように同じようなことを言う。日々の息苦しさが旅に出たことによって解消される訳ではないし、息抜きにはなっても変わらない日々が待っているのだから日常の中で活路を見出した方がいいと思ってしまう。こういう考え方こそが視野狭窄なのだろうか。旅に出ないと視野が広がらないという考え方自体も十分に視野が狭い。想像力の敗北。

 ボラ・ボラ島の夕焼けの話を思い出す。観光客の誰もが感動する美しい夕焼けだが、地元で毎日それを見て育った人は何も感じていないという。

 要は日々をどう捉えどう感じて生きていくかだと思う。

 自分は土日が休みだったとしても友人とは会わないかもしれない。長期休暇が取れたとしても旅には出ないかもしれない。だいたい旅行中、ギターはどうするのだ?弾いてないと鈍りそうだ。

 ギターのことも音楽のことも忘れて、好きな詩集と小説だけ持って旅に出てしまいたいと思いながら、旅には出ずに日常をやり過ごしている。