ファイアスターター

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 夏なので夏っぽいことを。

 この炎天下でも日中に散歩に出てしまう。休みの度に2時間かけて12kmほど歩き昼頃に帰ってくる。我ながら頭がおかしいと思うが、これで体調を崩したこともない。暑い中の散歩には夜の散歩と違う気持ちよさがある。漂う夏の匂いに包まれ、自分の中から何かが飛び出して火薬のように弾けている感覚がある。実際はただ汗をしこたまかいているだけなのだが。
 噴き出す汗に溺れそうになって歩いていると思い出す。小学生の頃は泳げなかった。あまりに泳げなかったので夏休みに小学校のプール教室に通わされたこともあった。それが厭で厭で仕方がなくて堪らず何度か抜け出した。親に怪しまれないよう、水着と髪を濡らすために少しだけ参加し具合が悪くなったと申告して帰った。厭な気持ちがあったので自然と顔色も悪くなり、先生に怪しまれることはなかった。誰も歩いていない炎天下の中、あちこちふらふらと歩き回り、たまに公園の時計で時間を確認し、道端に落ちているアイスの棒に群がっているアリや、出てきては慌てて茂みに引っ込むトカゲを観察するなどして時間を潰し、終わる頃を見計らって家に帰った。
 そのまま小学6年生まで泳げないままだったのだが、ある日を境に泳げるようになる。
 夏休みで母の実家に帰省中、従兄弟で集まって近くのプールで遊んでいる時にふと、やっぱり泳げるようになりたいなと思った。幸い泳ぎの達者な水泳教室に通っていた4歳下の従弟が居た。息継ぎが上手くできるようになれば勢いは足りなくても泳げるようになりそうだという自覚はあったので、従弟に自分の現状を見せアドバイスをもらった。息継ぎ以外は頭をしっかり沈める、息継ぎの際は引いた腕の動きと連動させれば自然に顔が上がる、バタ足が浮かないように意識しつつ足の甲でしっかり水中を蹴る、たったこれだけの指摘と従弟の実演であっさり泳げるようになった。苦痛だった6年間の体育の水泳の授業は何だったのだろうか。大勢の前では本来の力が発揮できない気質があったにせよ、だ。

 今までできなかったことが何かをきっかけに急にできるようになる。そういうことが結構あるのではないだろうか。全ての準備は整っていて必要なのはあと一押しなのだが、自力ではどうしてもそれができないということが。そしてそのきっかけとなる何かは意外と近くに転がっていたりする。