ジャズマスター、それは全ギタリストが一度は憧れるギターだ。
何年かおきにジャズマスター欲が湧き上がっては、丁度いいのが見つからなくて断念したり、まだその時期ではないと引っ込めたり、そういうことを繰り返している。
ジャズマスターはフェンダー社の商標だが、テレキャスターやストラトキャスターと同じくその設計は人類共通資産のようなものになってしまっているので各社からジャズマスター風モデルが出されている。しかしやはりフェンダーの物がいい。ヘッドに書かれている「JAZZMASTER」という文字が醸し出す雰囲気も好きだが、何よりヘッド形状が一番しっくりくる。スモールヘッドとラージヘッドの中間のジャズマスターヘッド。
どういう理由か知らないが他社からもフェンダーの特許と思われるヘッド形状のモデルが販売されていることがある。去年うっかり各パーツまで黒で統一されたモモセ製MJMを買おうと思ったことがあった。黒のアノダイズド・ピックガードという点まで含めて自分の好みどんぴしゃだった。が、3本しか製作されていないということもあり、考えているうちに市場から消えてしまった。
赤いボディに黒いピックガードのいかにも自分に向いている雰囲気のジャズマスターはピックアップがP-90で出音が好みではなかった。
決算期に特価で売られていたフェンダー・ジャパンのINORANモデルを買いそうになったこともあった。
そういった訳で、今までジャズマスターとは縁がなかった。
Kino Factoryのvyskと出会い、メタルに集中していてジャズマスターのことなんてすっかり頭から抜けていた頃、目に止まったのがスクワイア製40周年記念モデルのジャズマスターだった。先ず指板に目を奪われた。少し経年で焼けたように塗装されたメイプルの杢目がヘッドから流れるように繫がっていてきれいで、もしやと思って確認したら貼りではなくワンピースネックだった。裏の杢目もいい。エレクトリック・ギターは見た目で選んでいい。ボディはシーフォーム・グリーン、ピックガードはゴールド、全然自分で選びそうな色ではなかったがそれもよかった。たまには流れに身を任せないと同じ様な見た目のギターばかりになってしまう。
ペグ、ブリッジ、アーム、エンドピン、ネジに至るまでエイジド加工されたクロームパーツで統一され、つや消しの塗装と相俟って少し使い込まれた雰囲気を纏っていた。
ギターを弾かない人からすると、何故ギター弾きが所有ギターを増やしてしまうのか理解できないかもしれない。それはDTMerが作る曲に合わせて音源を追加購入する行為と同様だ。音楽をやらない人に分かりやすく言うと、煮込み料理には寸胴、ソテーにはフライパン、オレンジピールには小振りな鍋、みたいな使い分けだと思っていただきたい。
アンプやエフェクターで好きに出音を変えられるのがエレクトリック・ギターの利点だが、ギター本体をその時々の意図に合わせて持ち替えられるのも自由度が高くていい。自分の喉ひとつで勝負している歌い手さんや行く先々にある楽器を使うしかないピアニストには頭が下がるばかりだ。
弾いてみると、トレモロユニットの構造のせいなのか大きめのザグリのせいなのか、セミアコのように響く。
ブリッジからテールピースまでが長く、ミュートしないと共鳴弦のように鳴る。これがとてもいい効果になる場合がある。この共鳴が邪魔な時は右手でミュートすれば済む(ストラトキャスターでもトレモロスプリングが共振して似たような効果が得られるが、構造上不要な時にさっとミュートできない)。バズストップバーを追加したり弦落ち対策でブリッジを替えたりすると、このジャズマスターならではのおいしい部分がごっそり抜け落ちてしまう気がする。偶発的に出てしまうノイズを上手く利用するのがジャズマスターを使う醍醐味なのではないか。
安めのギターを買うとまずピックアップを交換してしまいたくなるのだが、このままでいこうと思う。スクワイアの40周年に敬意を払って。
春のM3で頒布する新譜制作のためにジャズマスターを手に入れたのだが、間に合わなかったり気が変わったりするかも知れないのでコンセプトはここでは明かさない。
Squier by Fender 40th Anniversary Jazzmaster Vintage Edition Satin Seafoam Green