ELLEGARDENのこと

 エルレには自力で辿り着いた訳じゃない。
 当時の自分には新しいものを探す気力がなかった。音楽でやっていく夢は潰え、ライブを観に行くとステージに立てていない自分の惨めさにいたたまれなくなり、殻に閉じこもるように昔から好きだったバンドの曲ばかり聴いていた。ここより先は亡くなってしまったあのギタリストが聴くことのできなかった音楽だ、という言い訳もどこかでしていた。
 何がきっかけだったのか忘れてしまったが、ある人がエルレのCDを貸してくれた。勢いのあるハードなバンドサウンドに乗っかる衒いのないメロディ。違和感なく発音される拗ねた感じで世界を捻くれて見ている英語の歌詞。かっこいいギターリフの嵐。新しい音楽を聴くという行為をサボっていたので好きかどうかの判断ができなかったのだが、いつの間にかCDを全部揃えていたし気がつくと口ずさむようになっていた。
 その頃は既に人気が爆発していたのでライブを観ることができたのはほんの何回かだけだ。既に述べた理由でライブに行くこと自体を避けていたのもあるが。
 初めてエルレをライブを観た時に今まで味わったことのない経験をした。
「Missing」という曲の中盤「ソーダの中の宝石」辺りで、自分一人を残して周りの景色が雑音とともにすっと消えた。水中に沈んだような感覚の中、そこに射し込む光のように曲だけが聞こえていた。水面の向こうにぼんやりと見えるステージの光。「一滴の水で泳ぐ」辺りからばーっと強くなった光の乱反射の中を浮かび上がり現実に戻ってきた。今まで音源で何度も聴いてきた曲の意味がやっと分かり、自分の感覚が曲の深い部分と繫がったと感じた。それからは音源で「Missing」を聴いてもあの時の繫がりを感じることができるようになった。気づいていなかっただけで、最初からそこにあった。
 後にも先にもこんなこと経験したことがない。このバンドは自分にとって特別な何かなんだなと強く感じるようになった。

 活動休止のライブはチケットが取れなかったので、最後にエルレを観たのはそのひと月前のひたちなかだ。それ以来ライブで観ていない。
 2年前に活動再開の発表があった時はうれしくて堪らなかったが、チケットは取れず、どうやらライブを2回やるだけで後のことははっきり決まってないということだったので絶望していた。

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 音漏れ目的で行ったスタジオコースト。音は少しも聴けなかった。

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 マリンスタジアムにも行った。チケットはなかったがグッズを買うためだけに朝から並んだ。フードの屋台が充実していてまるでフェスのようだった。サウンドチェックの音漏れで何曲か聴けた。「Fire Cracker」が始まった瞬間に泣いた。「Supernova」はフルコーラスやってくれた。サウンドチェック終わりの細美武士の「本番もよろしくお願いしまーす」の声が妙に懐かしく響いた。ハイエイタスでも耳にしてるのに。

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 一度限りの復活の懐かしいバンドを音漏れで聴くよりも、今最前線で戦っている人のライブを観ることにしていたのでラコスバーガーの豚汁を食べてからマリンスタジアムを後にした。炎天下に6時間程居たので豚汁はとてもしみた。チケットが取れていれば、きっと心の底から楽しめたのだろう。結局、エルレはその後も活動を継続することに決めた。

 去年の3月、エルレのライブを観るチャンスがあった。知り合いがアリスターとの対バンライブのチケットを1枚余らせていたのだ。しかし俺にエルレを教えてくれた人を差し置いて観るのは悪い気がしたので辞退した。その後エルレを教えてくれた人はフジロックエルレを観たらしいので、気を遣わず観に行っておけばよかったと思った。
 フェスに行くための休みも取れず、ナナイロエレクトリックツアーのチケットも取れなかったので、再始動エルレを観れないまま2年が過ぎた。
 正直に言うと、再始動したものの新曲を作る訳でもなく昔の曲ばかりでライブをこなしていくのはロックバンドのあり方としてどうなのかという気持ちもあった。俺たちは昔のエルレが観たい訳じゃなくて、あの日の続きのエルレが観たいんだよ。
 だけど先日の生配信アコースティックライブを観たら、そこにはロックバンド然としたエルレの姿があった。10年経ってそれぞれが腕を磨いていて、よりかっこいいバンドになっていた。しまい込んでいたマリンスタジアムで買ったTシャツを引っ張り出し、「おかえりエルレ」と心の中で言った。